21C KING SEJONG PROJECT
 

国には非常に独特な文字体系が存在します。これは隣国である中国、日本だけでなく世界のどの国の文字とも類をみないユニークな文字体系です。私達がハングルと呼んでいるこの文字は、1446年に頒布されて以来、今まで韓国語を表記する手段として使われています。長い間使われながら、ハングルは韓国人の誇りでもあり精神的な根幹となっています。 

 
 

ハングルが作られる前、韓国人は漢字を使い、文字生活を行ってきました。中世ヨーロッパでラテン語が民族を超えた共通の書き言葉の役割を果たしていたのと同じように、漢字は韓国だけでなく日本、ベトナムなど、東アジア全域で共通の書き言葉としての役割を果たしました。昔の韓国人が漢字を使い、文字生活をしたのは見方によっては当然のことだといえます。しかし、文字が示すところと音が異なっているという点は言語の使用と文字の使用の間に乖離を生みました。元々漢字は中国語を記録する文字であり、韓国語を漢字で表記することは大変難しいことでした。これにより、当時の人々は漢字を勉強するのに大変苦労をしました。新羅時代に薛聰(ソルチョン)が漢字を韓国式に表記する方法である吏読(イドゥ)をまとめたことがありますが、それさえも漢字についての基本的な理解を必要とするものであり、すべての人々が広く文字生活を行うには無理がありました。何よりも農作業を優先していた当時の農民たちが生業を後にし、多くの文字を覚えることは不可能なことでした。

 

当時は学識が権力につながる社会でした。これは、すなわち文字を読めるということが社会的な既得権に直結されることを意味します。漢文で成された当時の難しい文字体系は社会的な階級を付着させる役割をしました。字の読み書きができない人は科挙試験の問題が理解さえできなかったため、 科挙には 自然と文字を学んだ貴族の子孫だけが挑戦できたわけです。科挙の試験が当時官職に就く登竜門であったことを考えると、漢字と漢文は貴族層にとって、自分達の富と権力を世襲させるのに適切な手段であったわけです。それだけではなく、漢文の読解の難しさは人々に多くの苦痛を与えました。漢文で書かれた自分の罪状が読めなかったし、犯してもいない罪の濡衣を着せられ、逮捕され処罰されることも頻繁にあったことがいい例だといえます。

 

1443年、28個の文字からなる文字体系の発明はそれ自体でも世界的に類をみないほど画期的な試みでした。世宗が訓民正音を直接創製したのは、前述した問題点を解決し、文字が学べず無知な人々の濡衣をはらい、彼らに世の中を生きていくために必要な道理や知識を教え、より美しく住みよい社会を作るためでした。今日にまで世界からその優秀性が認められているハングルは元々このような引導的な意図から作られた温かい心の現れです。事実上、貴族にのみ許容されていた文字解読力。貴族層のみに制限されていたこの既得権がみんなに分けられたことは大きな革命でした。驚くべきことはこの革命の中心に世宗がいたということです。特権層の最頂点であるともいえる王の身分でありながら。崔萬理(チェマンリ)を始めとした朝廷の大臣らが強く反対したにもかかわらず、特有の学者的な識見と民を思う心を持って粘り強く大臣らを説得しながら、訓民正音を頒布した世宗の優しい心は聖君と崇められるに十分です。

「賢明な人は午前中にこれを理解し、愚かな人でも10日ほどで学ぶことができる。」訓民正音解例本に書かれた次のような文章でも分かるように、訓民正音は学びやすい文字です。漢字の膨大さと複雑さに比べ簡単で、体系的なハングルが識字率向上に大きく貢献したことは言うまでもありません。中世の時代に農民たちが字の読み書きができ、これにより知識が普及されたことは当時の西洋社会の文化水準をはるかに上回る誇らしいことです。農業や礼法に関するハングルの書籍が民衆にまで広く頒布され、社会統合と農業の発展も図ることができたし、ハングルで書かれた小説の流行で商業的な出版が盛んになるにつれ、ハングルは中世の社会を近代へと導く牽引車の役割を十分に果たしました。

 
 

世界で使われるすべての文字は意味の文字と音の文字に分けられます。意味の文字として私達にお馴染みの漢字を思い浮かべてください。この体系では文字、一つ一つが特定の意味を持っています。この文字体系には1つ大きな欠点があります。意味の文字は文化が発達し、指示したい物事と概念が増えれば増えるほど、新しい文字が必要になります。意味の文字は文字が新しくできるたびにこれを新たに暗記しなければならないという不便さが必然的にあります。一方、音の文字はそれぞれの文字が一定の声を表す体系です。だから音の文字は1つの言語が持つ豊かな音を簡単に処理することができます。

また、音の文字は細分化して音節文字と音素文字に分けることができます。1つの文字が子音、母音の区別なしに、「가」や「여」などの一定の音節を担うことが音節文字の特徴で、日本の文字である仮名がその代表的な例です。1つの文字が一つの音素を表す音素文字は音節文字よりもさらに発展した文字体系で、ローマ字とハングルがこれに当ります。音素文字であるハングルは初声、中声、終声の組み合わせで、韓国語のすべての音を表現することができます。ところが、これに必要な文字の数はたったの24個にすぎません。これは意味の文字である中国の漢字や音節文字である日本の仮名よりもはるかに経済的なものです。 

一部の学者はこれよりもっと進化した文字体系として資質の文字(feature system)を別に区別したりもします。資質とは1つの音を別の音と区別するという特徴を持っています。ハングルは各文字ことにこのような資質の特性を持っているため資質の文字と分類されることもあります。たとえば、ハングルの「ㅋ」と「ㄲ」を見てみましょう。これらの文字はすべて「ㄱ」を基に作られた文字です。「ㅋ」と「ㄲ」は「ㄱ」に画を追加する方式で音声的な資質(激音、硬音)が追加された文字であることを直感的に分かります。つまり、ハングルは音素文字として分類されるが、言語学的に西洋のアルファベットよりもレベルが高く科学的な文字体系であるということです。

ハングルは造形原理にもいくつかの注目すべき特徴があります。 
まず、簡素化の原理です。訓民正音の基本子母音は非常に簡潔な最低限の形を追求しています。三角形、円形、四角形、点、直線からなった基本図形だけで、ハングルのどんな形でも作ることができるという点が興味深いです。次は加画の原則です。ハングルのすべての文字は基本字型を中心に激音と硬音に画を追加するという簡単な方法により展開されます。これだけではありません。基本的な形態素は重心を軸に左右が対称を成した形をしています。このような左右対称の関係は視覚的な均衡感と安心感を与えます。

 
 

体系的でありながら簡単なハングルのシステム理論は今日により一層便利に適用されています。ハングルは情報化時代に文字の転送と電子文書化のための最適の文字です。12個の携帯電話のキーボードと60個のコンピュータのキーボードでハングルほどより速く、簡単に作業できる文字はありません。これは特に限られたキーボードだけを使わざるを得ない携帯電話のメッセージのキーボードを作る際に、その真価を発揮します。天地人の方式や画追加の方式であり、国内の携帯電話で使用されるキーボードの配列方式はすべてハングルの創製原理の延長線上で考案されたものです。直観からも分かるハングルの構成原理のおかげで、ハングルはアルファベットや中国の漢字、日本の仮名とはその効率性で他の追随を許さないようになりました。韓国に居住する外国人を対象とするテレビ番組を見れば、彼らがこの携帯電話のキーボードのシステムが作り出す便利さに驚きを隠せないのをしばしば見ることができます。

また、最近はデザインがますます重要な時代になってきました。ハングルは漢字のようにまとめて書く文字ですが、日本の仮名や西洋のアルファベットのように解いて書くことも可能です。それだけではなく、横書きと縦書きが全部可能で、デザイン的に多様性が追求できる余地が非常に豊富です。最近になって、より活気を浴びているハングルデザインはデザインにふさわしいハングルの属性を利用した傾向であるといえます。

 

前でみたようにハングルはみなさんの関心を引けるほど十分に美しく、科学的です。それが韓国で長く変わりなくハングルが使われ続けられている理由であるといえます。2008年、ハングルは頒布されて562年目を迎えました。私達の固有の文字体系を記念する10月9日のハングルの日は年を重ねていくにつれ、より盛大で、多彩になりつつあります。これはハングルに対する韓国人の関心がますます高まっていることを意味します。これを裏付けるかのようにあちこちでハングルに関する商品を発売され、ハングルを正しく使うための努力が傾けられています。たとえ小さい知識に過ぎないとしても、ハングルに関する知識を習得することで、みなさんは韓国と韓国人についてより深く理解することができるのです。なぜなら韓国人は一日もハングルなしでは生活できないからです。

韓国で最も多く使われる通貨の一つである1万ウォン札には世宗大王が描かれてあります。経済生活を営む韓国人のほとんどは一日に一回以上は1万ウォンに描かれた世宗大王に会うのです。